はじめてのお金の教科書

はじめての社会保険:給料から引かれるお金の正体を知ろう

Tags: 社会保険, 健康保険, 厚生年金, 雇用保険, 給与明細, お金, 新社会人

新社会人になり、初めて給与明細を見たとき、「思っていたより手取りが少ないな」と感じた方もいらっしゃるかもしれません。給与明細には、基本給の他に「控除」という項目があり、そこから様々な金額が差し引かれています。

この控除額の中で大きな割合を占めるのが「社会保険料」です。社会保険は、病気や怪我、失業、高齢になったときなど、もしもの場合に備えて、社会全体で助け合うための仕組みです。今回は、この社会保険について、その種類や仕組み、そしてなぜ私たちの給料から保険料が引かれているのかを分かりやすく解説します。

社会保険とは何ですか?

社会保険とは、国が定めた公的な保険制度の総称です。働く人々やその家族が、生活の中で直面する様々なリスク(病気、怪我、失業、高齢、死亡、出産など)に備えるためにあります。

日本では、主に以下の5つの社会保険制度があります。

これらの社会保険のうち、会社員や公務員として働く方が主に加入するのは、健康保険、厚生年金保険、雇用保険、労災保険の4つです(40歳以上は介護保険も加わります)。これらの保険料が、給与明細の「控除」の項目から差し引かれています。

それぞれの社会保険の仕組みを分かりやすく解説

1. 健康保険

健康保険は、病気や怪我で病院にかかるときの医療費の負担を軽くするための保険です。医療機関の窓口で健康保険証を提示することで、かかった医療費の自己負担額が原則3割(年齢によって異なります)になります。残りの7割は、皆さんが納める保険料と、会社が負担する分、そして国からの補助金などで賄われています。

会社員が加入する健康保険には、「協会けんぽ」と「健康保険組合」の二種類が代表的です。

どちらに加入するかは、勤めている会社によって決まります。

2. 厚生年金保険

厚生年金保険は、老後の生活を支えるための公的な年金制度の柱の一つです。会社員や公務員が加入します。毎月の給料から保険料が引かれ、会社も同額を負担します。

原則として、保険料を一定期間納めることで、65歳から「老齢厚生年金」を受け取ることができます。また、病気や怪我で障害が残った場合には「障害厚生年金」が、加入者が亡くなった場合には遺族に「遺族厚生年金」が支給されるなど、現役世代やその家族の万が一にも備える役割も担っています。

日本の公的年金制度は「二階建て」に例えられ、国民年金(1階部分)に加えて、厚生年金保険(2階部分)に加入することで、より手厚い年金を受け取ることができます。

3. 雇用保険

雇用保険は、働く人が失業した場合などに、生活の安定と再就職の支援をするための保険です。「ハローワーク」が主な窓口となります。

会社を退職し、失業の状態にあるときに、一定の条件を満たしていれば「基本手当」(いわゆる失業保険)を受け取ることができます。この手当は、次の仕事が見つかるまでの間の生活を支えるためのものです。

また、失業時だけでなく、育児や介護のために仕事を休む場合に給付金が支給されたり、専門的な教育訓練を受ける場合に費用の一部が助成されたりするなど、働く人々の雇用の継続や能力開発を支援する役割も持っています。

4. 労災保険(労働者災害補償保険)

労災保険は、仕事中や通勤中に事故や災害に遭い、病気や怪我をしたり、残念ながら亡くなってしまったりした場合に、本人や遺族を保護するための保険です。

他の社会保険と異なり、労災保険料は全額を会社が負担します。従業員が保険料を直接負担することはありません。労働者を一人でも雇用している会社は、必ず労災保険に加入する必要があります。

もし仕事や通勤が原因で怪我や病気になった場合、労災保険から医療費や休業中の所得を補償する給付などが受けられます。

社会保険料はどのように決まるのですか?

健康保険料と厚生年金保険料は、原則として毎月の給料(基本給や各種手当など)を基に計算される「標準報酬月額」と、「標準賞与額」に、決められた保険料率をかけて計算されます。

標準報酬月額とは、毎月の給料を区切りの良い幅で区分した金額のことです。例えば、給料が20万円から22万円の間であれば、標準報酬月額は20万円といったように定められています(具体的な等級や金額は決まっています)。この標準報酬月額に保険料率をかけて、健康保険料や厚生年金保険料が決まります。

そして、これらの保険料は、会社と働く人で半分ずつ(折半)負担するのが一般的です。給与明細から差し引かれているのは、皆さんの負担分ということになります。会社も同額の保険料を負担し、皆さんの負担分と合わせてまとめて年金事務所や健康保険組合などに納めています。

雇用保険料も同様に給与に基づいて計算されますが、保険料率が異なります。労災保険料は全額会社負担です。

なぜ社会保険は必要なのですか?

社会保険は、単に給料から引かれるお金ではなく、私たちが予測できないリスクに備えるための、言わば「お守り」のようなものです。

もしあなたが病気や怪我で長期入院することになった場合、医療費は高額になる可能性があります。健康保険があれば、自己負担を抑えることができます。また、入院中に給料がもらえなくても、健康保険から「傷病手当金」という給付が受けられる場合があります(勤め先の健康保険の種類や条件によります)。

将来、年を取って働くことが難しくなったとき、厚生年金があれば生活の支えとなります。もし勤めている会社が倒産して急に職を失ったとしても、雇用保険から基本手当が支給され、次の仕事を探す間の生活を助けてくれます。

このように、社会保険は「もしも」のときに、私たち自身や家族の生活を守るためのセーフティネットとしての役割を果たしています。保険料を納めることで、自分だけでなく、同じ社会に暮らす多くの人々を支え、また自分自身も必要なときに支えられる仕組みに参加しているのです。

まとめ:社会保険を理解することが将来の安心につながります

今回は、給与明細でおなじみの社会保険について、その種類と仕組みを解説しました。

社会保険は、私たちが安心して働き、生活していく上で非常に重要な制度です。給料から差し引かれている社会保険料が、単なる支出ではなく、自分自身の将来や「もしも」に備えるための投資だと理解していただけたら幸いです。

給与明細を見る際には、控除されている社会保険料が、それぞれの保険制度にどのように使われ、どんなメリットがあるのかを意識してみてください。社会保険について正しく理解することは、将来への漠然とした不安を減らし、安心して生活するための第一歩となるでしょう。